1.趣旨
平成11年2月に環境庁より公表された「淡水汽水魚類レッドリスト」にメダカが絶滅危惧U類に登載されて以来、県内に限らず県外からもメダカ水路復元に対する問い合わせが多くあることから、当会が県内の生息地調査等から把握した条件も加味して、復元手法の参考として作成しました。

2.メダカの住む環境(対比)と生態
条件 メダカが住む所 メダカが住まない所
地形 平地の浅い川や沼、小川や水田
用水路、排水路
谷川、大きな川
水深 浅い(最小水深5cm)
深いところがあっても浅場にいる
多様な水深
流速 無いか最大でも10cm/sec
程度と緩やか
速い
水温 高い 低い
川底 泥がある 砂礫が多い
生活の様子 大きなメダカを中心に群れをつくる
水面近くを泳ぎまわる
群れをつくる
水面近くとは限らない
一緒に見られる
魚の種類
ドジョウ、フナ、タモロコ、タナゴ ウグイ,アブラハヤ,オイカワ
などの子をメダカと見間違うことが多い
水草 抽水植物や浮葉植物 沈水植物多い
(尾田徳治著メダカの学校より一部引用)

3.メダカが何故いなくなったのか
(1)工事に伴う水路の分断(水の枯渇・生き埋め)
(2)用水・排水の分離に伴う水田との移動分断(産卵ふ化,幼魚生育場所の減少)
(3)非カンガイ期の断水と水路ネットワークの分断(落差工等)
(4)用排水路のコンクリート化(流速が速く待避場所ない,水温が上がらない)
(5)地下水位の低下による水たまりの減少(冬期の生存場所の消滅)

4.保全生態学からの留意事項
別に定めた「メダカ保護活動ガイドライン」を参照
上記をクリックしてください

5.水路復元工法
(1)はじめに
生き物が生存できる水路は一種類のみを優遇する考えは排除し、同じ様な条件で生息する多様な魚種が共存できることを念頭に置いて工法を検討することが肝要です。

(2)水田地帯で復元する場合
イ)水路の構造
3面とも土の構造で、法勾配は緩やか(一割以上)にし、単一断面とせず、水路内で平面での変化(カーブやワンド)、縦断での変化(深み・瀬)、横断での変化(深み・浅瀬)をつけましょう(最低水深の目安:対象魚の体長の3倍「川のHの条件」・森下著参照)流速は10cm/sec程度以下になる縦断勾配としましよう
ロ)水田との関係
周囲の水田所有者の理解が得られるなら、水路敷きの高さを水田面より10cmから20cm下げましょう(これ以上下げると水路と水田間の移動困難)。水田の排水機能を確保しつつ水路を造る場合は,水田排水占用の水路と生き物占用の水路を併設する(二階立て水路等)ことが必要です。
ハ)水路単独の場合
水路構造はイ)を参考としますが、特に留意すべき点は 洪水時の待避場所の確保と、非かんがい期の溜まり場の確保です。また鳥等から隠れるためのオーバーハングや抽水植物等の繁茂が重要です。メダカについては浅場が必要です。
ニ)植栽計画について
水路には放置して置いても水田雑草や、水生植物が生えて来ますが、隠れ家や産卵の場を確保する意味からも、地域で確保できる抽水植物(ショウブ・ミクリ・カキツバタ等)をワンド部や、水際部にかたまって植えるとよいでしよう。
ホ)その他
水路は閉鎖系でなく、他の水路とネットワークができるようにしましょう(生態系の復元は自然の力に依存した方が良い)
餌の供給がどこからかを考えておく必要があります(水田の排水等が入らない場合)
非かんがい期に水が必ず確保されることは確認しておく必要があります(不安定な要素があれば地下水汲み上げ等)
水路の長さは最低でも100m単位が望ましい(数多い個体群が生存できる様にする)でしよう
水路の管理(水路形態の修復や除草)や追跡調査・監視活動等を行う地域のボランティアグループ立ち上げが絶対必要です

(3)都市公園等の池で復元する場合
イ)池の構造
底及び法面ともに土の構造が望ましく、とくに水際は緩い勾配とするほうが望ましい(エコトーンの設置)。また水深は各所で変化を付け、特に水際部については極力幅広く(最低でも2m以上)設け,その水深は5cmから10cm程度が確保できる様配慮しましょう(産卵場の確保と幼魚の逃避場所としても必要です)
人工の池は広い開放面を有する反面、隠れ場所が極端に少ないため植生の浮島や、観察のための木道等を設置し隠れ場所を提供することも良いでしよう
水際の線形は単純とせず、変化をつけましょう
ロ)植栽計画
植栽は基本的に抽水植物、浮葉植物、沈水植物の3種が水深に応じて成育するのが自然です。そのように計画することが最も望ましいと考えられます。移植する植物は地域で確保できる植物を選定し、帰化植物は移植しないようにしましょう。(例えばキショウブ等)
ハ)その他
池はできる限り閉鎖系でなく、付近の水路や河川とネットワークでつながるようにした方がよいでしよう(生態系の復元は自然の力に依存した方が良い)。ただし,接続する水路に外来種(バスやブルーギル等)がいることが明確な場合は,別途対策を検討しましよう
池の規模はあまり小規模でない方がよいでしよう(数多い個体群が生存できる場所を確保する)
非かんがい期に水が必ず確保されることを確認する必要があります
池の管理(主に除草や底さらい)や追跡調査,監視活動,場合によっては外来魚等の駆除などを行う地域ボランティアグループの立ち上げが必要です

6.魚等の放流について
地域における生態系の復元の原則は、元々生息していた魚種がそこで繁殖し続ける条件を整備することであり、生き物は原則として自然の復元力に期することが良いのですが、そのような条件ばかりではないのが大部分です。そこで魚類の放流となるわけですが,以下の点に留意しましょう。

(1) もともとそこにいた種に限定しましょう(地域の古老等に聞くか,過去の調査書を参考)
(2) 付近で採捕可能ならば同一水系が望ましいです
(3) 決して養殖業者等からは購入しないようにしましょう

7.その他
(1) 水路や池が整備されるとその条件を好む多数の生き物が生息するようになります。これらの生き物はほぼ予想出来ますのでその生き物たちに対する生息条件の整備も併せて検討することが肝要です


トンボ 流水性・止水性を問わず付近に藪や小灌木群が必要。また池には止まり木等もあるとよい。
鳥の止まり木や魚類の隠れ場として 水辺樹の植林(柳等)
 
(2) イ)既存水路を改修する場合
・水路に生息している生物は水を切る前に皆で捕獲して別な場所へ一時避難させましよう。
・付近の水域に避難させる場合、水の確保を必ず確認しましよう。
・移植は生き物に限らず、水生植物や河畔木等も考えましょう。

ロ)生息水路を潰して新たに水路を造る場合
イ)に次の項を追加します。
・現況水路の土砂をなるべく乾燥させないで、新設水路に移動する(水路の土砂の中は沢山の種や卵・稚貝等が含まれている遺伝子の宝庫です)。

ハ)使用する建設材料について
・極力自然素材を利用する様考慮しましょう(最近はそのような材料が多い)。
ニ)ボランティア
極力地域のボランティアの力を利用して意識の向上を図りましょう。
(グラウンドワーク手法を活用しましょう)